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ポリアミン仮説?
血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見
―オートファジーを介する抗加齢効果と病態との関連を示唆―
順天堂大学大学院医学研究科神経学の斉木臣二准教授、服部信孝教授、老人性疾患病態・治療研究センターの吉川有紀子特任助教らの研究グループは、パーキンソン病*1 患者血清中のポリアミン(スペルミン)*2 とその代謝産物*3 7種がパーキンソン病診断・重症度評価のバイオマーカーになりうることを発見しました。
さらに、パーキンソン病患者ではオートファジー誘導作用によって長寿効果を持つとされるスペルミン産生が年齢にかかわらず一貫して低下していることを明らかにしました。
これらの結果はパーキンソン病患者の加齢リスクとオートファジーとの関連を初めて示した画期的な成果で、病態に基づく早期診断に繋がる点に意義があります。
本成果は、米国神経学会誌「Annals of Neurology」のオンライン版(日本時間2019年7月3日付)で公開されます。
パーキンソン病患者を含む集団血漿データ(健常者45名、パーキンソン病患者145名)を検討し、抗加齢効果を持つスペルミジンから作られるN8-アセチルスペルミジンの値が上昇していることを見出しました。
スペルミジンやスペルミンはポリアミンの一種であり、線虫・ショウジョウバエ・マウスにおいてオートファジー*4 を誘導することで、運動機能保持・記憶力保持・心機能保護等の抗加齢効果を持ちます。
次にパーキンソン病患者体内でポリアミンがどのように代謝されているかを解明するため、別集団(健常者49名、パーキンソン病患者186名)において病期・重症度との関連を血清ポリアミンとその代謝産物7種(スペルミジン、スペルミン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N12-ジアセチルスペルミン、N-アセチルスペルミン)に拡張して評価し、併せてMRIにおける脳実質の変化との関係や代謝酵素遺伝子変異を調べました。
その結果、パーキンソン病患者群ではジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、ジアセチルスペルミン、スペルミジンが有意に増加している一方、スペルミンは減少していることを発見しました。
これらの代謝物のうち、ジアセチルスペルミジンはパーキンソン病の重症度*5 に相関して上昇していました。
さらに、ポリアミン7種の各濃度により高確率でパーキンソン病を診断できることがわかり、バイオマーカーとしての有用性を実証することができました。
またパーキンソン病患者では黒質ドパミン神経細胞だけでなく、他の神経軸索ネットワークも障害されていることが分かっていますが、無作為に抽出したパーキンソン病患者20名のMRI像の脳の軸索変化とジアセチルスペルミジン値の関係を検討したところ、ジアセチルスペルミジンが高いほど、脳の軸索障害が強いことが分かりました。
次にパーキンソン病患者群ではスペルミジンが増加しているにもかかわらず、その下流代謝物であるスペルミンが減少していることに着目しました。
実際、スペルミン/スペルミジン比はパーキンソン病患者で有意に低下しており、健常者では加齢に伴いスペルミン/スペルミジン比が低下するのに対し、パーキンソン病患者群では年齢に関係なく低値を示しました。
本結果は加齢が最大のリスクとされるパーキンソン病患者では、スペルミンによる抗加齢作用が低下していることを示唆します。
また7種のポリアミン化合物の中でスペルミンが神経系細胞で最も高いオートファジー誘導能を示しました。
本成果から血中ポリアミン・関連代謝産物測定により、パーキンソン病の早期診断・疾患重症度判定が可能となり、薬効評価への応用を介して、新薬創製に繋がることが期待されます。
スペルミン/スペルミジン比は、超早期の前臨床期・前駆症状期における発症前診断に繋がり、ひいては先制医療開発の一助となるものと考えられます。
パーキンソン病ではスペルミンによる抗加齢作用が低下していることから、研究グループでは、オートファジー誘導能が最も高いスペルミンについて、その体内濃度を調節する仕組み・オートファジーを誘導する仕組みについて検討を続けており、加齢メカニズムとパーキンソン病の発症メカニズムとの関係をさらに明らかにすることで、パーキンソン病の新たな治療法の開発を目指しています。
用語解説
*1 パーキンソン病:
進行性の中脳黒質神経細胞脱落を特徴とする神経変性疾患で、わが国の患者数は14万人とされるが、高齢になるほど発症率が高まるため、2030年には全世界で1400万人が罹患する
と予測されている。
*2 ポリアミン(スペルミン):
生体内化合物群のうちプトレシン、スペルミジン、スペルミンの3化合物の総称。スペルミジン、スペルミンはオートファジー誘導作用が線虫、ショウジョウバエ、マウスで報告
されており、オートファジー誘導を介して長寿に働くとされる。
*3 ポリアミンとその代謝産物:
下図に示すように、本研究では化学的に安定な赤字の化合物7種を測定した。プトレシンからスペルミジンが、スペルミジンからスペルミンが合成され、アセチル化されること
により生理活性を失うと考えられている。
*4 オートファジー:
リソソームにおけるたんぱく質分解系の一つで、細胞、個体の恒常性維持に必須な細胞応答である。オートファジーの異常は神経変性疾患を引き起こすと考えられている。
本機構に関与する遺伝子の同定・機能解析の功績により、2016年に大隅良典先生がノーベル医学生理学賞を受賞されている。
*5 パーキンソン病の重症度:
パーキンソン病の重症度を示す指標として「ヘーン-ヤールの重症度(Ⅰ~Ⅴ度)分類」が用いられる。Ⅰ度:ふるえなどの症状が片方の手足のみである場合、
Ⅱ度:両方の手足にみられる場合、Ⅲ度: 病気が進行し姿勢反射障害(体のバランスの障害)を示す場合、Ⅳ度:日常生活に部分的な介助が必要になった場合、
Ⅴ度:車いすでの生活や寝たきりとなった場合。
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